「カルビープロ野球チップス」が、誕生から50年の節目を迎えた。昭和、平成、そして令和の子どもたち、さらには大人たちをも夢中にさせた「プロ野球カード」もまた、記念すべきメモリアルイヤーを迎えることになった。それを記念して刊行されたのが『カルビー野球カード50YEARS ANNIVERSARY BOOK』である。
「カルビープロ野球カード」は歴史を映す「子ども文化遺産」である!
「今度は誰のカードが出るのかな?」と、期待と不安とともに袋を開封する喜びと興奮。友だちと交換したり、コレクションしたり、元号が変わり、時代が変わっても、その快感は不変だ。それが、半世紀にわたって、子どもも大人も魅了する僕らの「プロ野球チップスカード」なのだ。
元々は1971(昭和46)年発売の「仮面ライダースナック」のオマケとしてカードをつけたことがキッカケとなり、73年に「プロ野球スナック(当時)」にもカードをつけるようになったのだという。73年と言えば巨人V9達成の年であり、長嶋茂雄の現役最晩年でもある。当然、記念すべき「カード第一号」は、本書表紙の右上に掲載されている満面の笑みの長嶋さんだ。
当時はジャイアンツ人気が最高潮のころだったため、カードも巨人中心だった。今では信じられないことだが、最初期に発売された「1973年バット版カード」のカードリストを見ると、全91枚のうち、実に50枚がジャイアンツ選手で占められているのだ! さらに、セ・リーグではヤクルトは1枚もない。ヤクルトは「飲食メーカー」のライバル企業として除外されたのであろうか?
さらにさらに、パ・リーグにいたっては、阪急ブレーブス、南海ホークス以外の4球団のカードが、そもそも存在していないことにも驚かされる。その内訳は、全91枚中、セ・リーグ76枚(ヤクルト0枚)、パ・リーグは15枚(南海10枚、阪急5枚)! 当時の子どもたちのジャイアンツ愛、ON人気の絶大さはもとより、野球界全体の「セ・リーグ偏重ぶり」がこんなところにも表れているのだろう。まさに、「カルビープロ野球カード」は歴史を映す貴重な「子ども文化遺産」なのである。
すでに「国民食」となった「カルビープロ野球チップス」
本書には、誕生した1970年代から、80年代、90年代、さらには2000年代、10年代以降のクロニクル形式で懐かしいカードがたくさん並んでいる。選手の雄姿が躍るカラー写真の表面だけではなく、裏面の解説文も併せて掲載されているのが嬉しい。また、手に取るだけで、自分が子どもだったころに一瞬でタイムスリップできるのも楽しい。
本書の巻頭には「私とプロ野球チップス」と題して、カルビーマーケティング本部のポテトチップスチームで、2009年から現在にいたるまでカード開発を担当している三井剛さんのインタビューが掲載されているが、それによると「巨人が強い年はプロ野球チップスも売れる」のだという。これまでの販売記録によると「76年、87年の売り上げがすごくいい」そうだ。
76年と言えば、長嶋茂雄監督が前年最下位の屈辱から一気に初優勝を果たしたシーズンであり、87年は、王貞治監督が就任4年目で初優勝を実現した一年だ。長嶋さん、王さんの記念すべき初優勝時は「プロ野球チップス」も売れるし、カードも大量に世間に出回ることになるのである。巨人人気と「プロ野球チップス」とは、切っても切れない一蓮托生の間柄にあったのだということの証明だろう。
しかし、75年に広島東洋カープが待望の初優勝を実現し、78年にはヤクルトスワローズ、79年には近鉄バファローズが悲願のリーグ制覇を果たすなど、それまで「弱小球団」と称されていたチームが台頭すると、高度経済成長期以降のプロ野球ファン事情は一変する。85年には阪神タイガースが初の日本一に輝き「猛虎フィーバー」を巻き起こし、79年に誕生した西武ライオンズが広岡達朗、森祇晶監督の下で黄金時代を築き上げる昭和後期、さらには平成期が訪れると「巨人一辺倒時代」は終焉を迎えることになる。ページをめくるたびに、当時の野球界の事情が鮮やかによみがえる。
存亡の危機を乗り越えて、次代へ続く定番商品に
93年にJリーグが誕生したことにより、同じくカルビーから「Jリーグチップス」が誕生。すぐに大ヒットを記録し、「プロ野球チップス」は存亡の危機を迎えたという。
95年から96年までの2年間は、カルビーの関連会社である東京スナックに移管されることにもなった。それでも、「Jリーグチップス」の人気が落ち着いてきた97年に「プロ野球チップス」はカルビーに復帰。現在に続くカードブームを牽引することになるのだ。この間、野茂英雄、イチローなど、日本人メジャーリーガーが続々と誕生。04年には球界再編騒動にも見舞われた。それでも、子どもたちはポテトチップスを食べ、プロ野球カードに夢中になっていた。プロ野球界にさまざまな激変が訪れても、「カルビープロ野球チップス」は不滅なのである。
……滔々と、偉そうに述べているけれど、もちろんすべては本書の受け売りである(笑)。「人に歴史あり」「プロ野球カードに歴史あり」である。さて、1973年の発売以来、一体これまでにどれくらいのカードが発行されたのだろう? 前述の三井さんによれば、「これまでに約2万種類、18億枚が発行された」という。単純計算で日本国民全員が一人10枚以上持っていることになる。もはや「カルビープロ野球チップス」は「国民食」と言っても差し支えないのである!
カルビー社内では「かっぱえびせん」「サッポロポテト」に次ぐ歴史を誇るのが、この商品だという。同社の看板商品であり、不滅のロングセラーである「プロ野球ポテトチップス」にはこれからも、これまで同様に多くの子どもを、そして大人たちを虜にする「国民食」として、さらなる発展を遂げてほしいと、切に願っているのは僕だけではないだろう。おめでとう、「カルビープロ野球チップス」、ありがとう「カルビープロ野球カード」!
(執筆:長谷川晶一)